
腸内細菌叢を育てる食習慣 “短鎖脂肪酸”とは?
“第二の脳”ともよばれる「腸」。腸内環境が肥満や代謝、免疫など全身に影響を与え、様々な形で健康に関与することはよく知られていますが、そのうえで今回注目したい成分が「短鎖脂肪酸」です。

腸内細菌叢を育てる栄養素「食物繊維」
食物繊維の働き
食物繊維は、たんぱく質や脂質、糖質とは違い、直接エネルギー源になる栄養素ではありません。人の消化酵素では分解できないため、小腸で消化・吸収されることなく大腸に到達し、腸内細菌の餌となることで腸内環境を整える働きを持っています。
食物繊維は大きく2つに分類され、水溶性食物繊維は水に溶けて腸内でゲル状になり、糖や脂質の吸収を穏やかにする働きを、不溶性食物繊維は水分を吸収してふくらみ、腸内で便のカサを増す働きを担っています。
食物繊維の代謝で生まれる「短鎖脂肪酸」が健康のカギに!
食物繊維は小腸で吸収されることなく大腸まで届き、そこで腸内細菌によって代謝・発酵されます。その過程で産生されるのが短鎖脂肪酸です。
短鎖脂肪酸とは
腸の健康を支える短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸は脂質を構成する脂肪酸のうち炭素が2〜6個結合したもので、代表的なものとして「酢酸」「酪酸」「プロピオン酸」の3種類が知られています。
酪酸は大腸の粘膜細胞の主要なエネルギー源となり腸のバリア機能を支え、酢酸やプロピオン酸は腸内環境を弱酸性に保つことで、悪玉菌の増殖を抑える役割を担います。
短鎖脂肪酸が代謝に及ぼす作用
短鎖脂肪酸の働きは腸内環境だけでなく、基礎代謝の向上やインスリン分泌・食欲を抑えるGLP-1等のホルモン分泌を促進するなど、代謝にも関与するといわれており、内臓脂肪が蓄積しにくい身体づくりにもつながると考えられています。
短鎖脂肪酸と免疫の関係
短鎖脂肪酸は、腸内環境を整えるだけでなく、大腸粘膜の「制御性T細胞(Treg細胞)」の維持に働いています。制御性T細胞は過剰な免疫反応を抑制する役割を持つ免疫細胞で、腸内の制御性T細胞は体内の炎症が起きている場所に移動して働くと考えられています。
食物繊維の適切な摂取で腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促すことは、大腸粘膜を健やかに保ち、制御性T細胞による身体の炎症を抑える働きを助けることにもつながるのです。
「太りやすい体質」には腸内細菌の乱れが関係している
食物繊維の代謝
食事をして口から入ってきたエネルギーは、全てが同じように吸収・利用されるわけではありません。
炭水化物は糖質と食物繊維からなり、このうち食物繊維はエネルギーとしては利用されず、腸内細菌によって短鎖脂肪酸が産生されます。短鎖脂肪酸は脂質の吸収能にも影響を与え、抗肥満作用があるといわれています。つまり、同じ炭水化物摂取量でも、腸内での短鎖脂肪酸の産生能や脂質の吸収効率が異なれば、体内に入ってくるエネルギー量も変動し、これが「太りやすさ」の違いとなるのです。
太りやすい体質は腸内環境の乱れも原因に

高脂肪食を続けると、腸内細菌叢はわずか3.5日程度で悪玉菌優位の状態へ変化してしまうことが報告されています。
揚げ物やファストフード、脂身の多い肉料理、バターや生クリームを多用した料理が中心の「高脂肪食」は、野菜やきのこ、海藻類などの食物繊維が不足しがちになり、短鎖脂肪酸の産生も低下するため善玉菌が増えにくくなってしまいます。
しかし、この変化は不可逆的なものではなく、食物繊維たっぷりの食生活に整えることで腸内環境は再び健康的なバランスへと戻すことができるといわれています。
腸内細菌の力を引き出す習慣
食事内容を工夫して善玉菌を増やす
ヨーグルトや発酵食品で善玉菌を摂取しても、それらは数日で体外へ排出されてしまい、体内に“貯菌”することができません。食事の工夫で健康的な腸内細菌叢を育てるために、2つの方法を意識することをおすすめします。
①善玉菌そのもの(プロバイオティクス)を摂取する
ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品は、乳酸菌やビフィズス菌などの代表的な「善玉菌」を豊富に含みます。

②善玉菌の餌となる食品(プレバイオティクス)を摂取する
プレバイオティクスとは、善玉菌の餌となり腸内細菌のバランスを整える働きを持つ、オリゴ糖や食物繊維などの難消化性の成分です。これらの成分は胃や小腸で消化・吸収されることなく大腸まで届き、そこに生息する善玉菌の餌となることで「短鎖脂肪酸」の産生に役立ちます。
オリゴ糖は野菜、果物、豆類に、食物繊維は野菜、海藻、きのこなどに多く含まれます。

適度な運動
運動によって体内で作られた乳酸は、筋肉から血液中に放出されます。腸内では一部の細菌がこの乳酸を利用し、結果的に短鎖脂肪酸の産生に寄与することが報告されています。
便通を整える
腸内細菌は、大きく善玉菌・日和見菌・悪玉菌の3つに分類されます。中でも最も多くを占めるのが日和見菌で、日和見菌はそれ自体が明確に善玉・悪玉として働くのではなく、腸内環境の状態に応じて振る舞いを変える特徴を持っています。
善玉菌が優位な環境では善玉菌と協調して腸内環境の維持に貢献する一方、悪玉菌が増えている環境では悪玉菌側に傾き、有害物質の産生に関与することがあるのです。
便が腸内に長くとどまる結果腸内細菌が利用できる食物繊維が不足し、たんぱく質や脂質の腐敗発酵が進みやすくなります。腐敗発酵により腸にとって好ましくない代謝産物が増加すると善玉菌が働きにくくなり、相対的に悪玉菌が優位になりやすくなってしまいます。
便通を整えるには、次の3つのポイントを意識しましょう。
①便を“作る”
野菜や海藻、きのこなどの食物繊維が豊富な食材を意識的に摂り、便を作りやすくします。
②便を“育てる”
食物繊維を意識して摂ることで善玉菌による短鎖脂肪酸の産生が促され、腸内環境を整えながらよい便を育てます。
③便を“出す”
適度な運動と十分な水分補給で腸の蠕動運動を助け、自然な排便を助けます。
規則正しい生活リズム
夜更かしや不規則な食事などによる体内時計の乱れは、腸内環境の乱れにもつながります。腸内環境の乱れは短鎖脂肪酸の産生能へ影響を及ぼし、脂質の消化・吸収が促進されやすくなるため、エネルギーを蓄積しやすい状態になってしまいます。
体内時計の調節にもっとも大切なのは「目から入った光の情報」だといわれています。朝起きたら日を浴びる、就寝前のスマートフォンの使用を控えるなどの工夫で、日中と夜の生活リズムを整えるようにしましょう。
あなたの毎日の選択を反映する「腸内環境」

腸内環境を整えるカギは、腸内細菌とその代謝産物である「短鎖脂肪酸」をいかに効率よく生み出せるか。そのために必要なのが、日々の食事から摂取する食物繊維です。
腸内環境は、日々の食事や生活習慣次第で良い状態にも悪い状態にも傾きます。野菜や海藻などから食物繊維をしっかり摂り善玉菌を育て、規則正しい生活リズムや適度な運動を心がけましょう。
